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萩原 朔太郎

ラヂオ漫談

読み手:富田 美苗(2011年)

ラヂオ漫談

著者:萩原 朔太郎 読み手:富田 美苗 時間:12分4秒

 東京に移つてから間もなくの頃である。ある夜本郷の肴町を散歩してゐると、南天堂といふ本屋の隣店の前に、人が黒山のやうにたかつてゐる。へんな形をしたラツパの口から音がきれぎれにもれるのである。
「ははあ! これがラヂオだな。」
と私は直感的に感じた。しかし暫らくきいてゐると、どうしても蓄音機のやうである。しかもこはれた機械でキズだらけのレコードをかけてる時にそつくりで、 絶えずガリガリといふ針音、ザラザラといふ雑音が響いてくる。何か琵琶歌のやうなものをやつてるらしいが、唱に雑音がまじつて聴えるといふよりはむしろ雑 音の中から歌が聴えるといふ感じである・・・

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