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宮沢 賢治

ツェねずみ

読み手:室 由美子(2012年)

ツェねずみ

著者:宮沢 賢治 読み手:室 由美子 時間:15分37秒

 ある古い家の、まっくらな天井裏に、「ツェ」という名まえのねずみがすんでいました。
 ある日ツェねずみは、きょろきょろ四方を見まわしながら、床下街道を歩いていますと、向こうからいたちが、何かいいものをたくさんもって、風のように走って参りました。そしてツェねずみを見て、ちょっとたちどまって早口に言いました。
「おい、ツェねずみ。お前んとこの戸棚の穴から、金米糖がばらばらこぼれているぜ。早く行ってひろいな。」
 ツェねずみは、もうひげもぴくぴくするくらいよろこんで、いたちにはお礼も言わずに、いっさんにそっちへ走って行きました。ところが戸棚の下まで来たと き、いきなり足がチクリとしました。そして、「止まれ、だれかっ。」と言う小さな鋭い声がします・・・

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