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森 鴎外

半日

読み手:小林 きく江(2023年)

半日

著者:森 鴎外 読み手:小林 きく江 時間:1時間11分27秒

 六疊の間に、床を三つ並べて取つて、七つになる娘を眞中に寢かして、夫婦が寢てゐる。宵に活けて置いた桐火桶の佐倉炭が、白い灰になつてしまつて、主人の枕元には、唯ゞ心を引込ませたランプが微かに燃えてゐる。その脇には、時計や手帳などを入れた小葢が置いてあつて、その上に假綴の西洋書が開けて伏せてある。主人が讀みさして寢たのであらう。
 一月三十日の午前七時である。西北の風が強く吹いて、雨戸が折々がた/\と鳴る。一間隔てた臺所では下女が起きて、何かこと/\と音をさせてゐる・・・

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