薄田 泣菫 作
読み手:宮松 大輔(2025年)
夕方ふと見ると、植込の湿つぼい木かげで、真赤なまんりやうの実が、かすかに揺れてゐる。寒い冬を越し、年を越しても、まだ落ちないでゐるのだ。
小鳥の眼のやうな、つぶらな赤い実が揺れ、厚ぼつたい葉が揺れ、茎が揺れ、そしてまた私の心が微かに揺れてゐる……
謙遜な小さきまんりやうの実よ。お前が夢にもこの夕ぐれ時の天鵞絨のやうに静かな、その手触りのつめたさをかき乱さうなどと、大それた望みをもつものでないことは判つてゐる。いや、お前の立つてゐるその木かげの湿つぽい空気を、自分のものにしようとも思ふものでないことは、よく私が知つてゐる。
お前はただ実の赤さをよろこび、実の重みを楽しんでゐるに過ぎない・・・
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