芥川龍之介 作
読み手:堀江 令子(2025年)
これは近頃Nさんと云う看護婦に聞いた話である。Nさんは中々利かぬ気らしい。いつも乾いた唇のかげに鋭い犬歯の見える人である。
僕は当時僕の弟の転地先の宿屋の二階に大腸加答児を起して横になっていた。下痢は一週間たってもとまる気色は無い。そこで元来は弟のためにそこに来ていたNさんに厄介をかけることになったのである。
ある五月雨のふり続いた午後、Nさんは雪平に粥を煮ながら、いかにも無造作にその話をした。
× × ×
ある年の春、Nさんはある看護婦会から牛込の野田と云う家へ行くことになった。野田と云う家には男主人はいない・・・
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