織田 作之助 作
読み手:宮松 大輔(2025年)
文子は十七の歳から温泉小町といわれたが、
「日本の男はみんな嘘つきで無節操だ。……」
だからお前の亭主には出来ん――という父親の言落を素直にきいているうちにいつか二十九歳の老嬢になり秋は人一倍寂しかった。
父親は偏窟の一言居士で家業の宿屋より新聞投書にのぼせ、字の巧い文子はその清書をしながら、父親の文章が縁談の相手を片っ端からこき下す時と同じ調子だと、情なかった。
秋の夜、目の鋭いみすぼらしい男が投宿した・・・
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