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芥川 龍之介 作

尾生の信

読み手:小林 きく江(2025年)

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尾生の信

著者:芥川 龍之介 読み手:小林 きく江 時間:9分27秒

 尾生は橋の下に佇んで、さっきから女の来るのを待っている。
 見上げると、高い石の橋欄には、蔦蘿が半ば這いかかって、時々その間を通りすぎる往来の人の白衣の裾が、鮮かな入日に照らされながら、悠々と風に吹かれて行く。が、女は未だに来ない。
 尾生はそっと口笛を鳴しながら、気軽く橋の下の洲を見渡した。
 橋の下の黄泥の洲は、二坪ばかりの広さを剰して、すぐに水と続いている。水際の蘆の間には、大方蟹の棲家であろう、いくつも円い穴があって、そこへ波が当る度に、たぶりと云うかすかな音が聞えた・・・

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