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薄田 泣菫

「茶話」より「蛇」

読み手:入江 安希子(2016年)

「茶話」より「蛇」

著者:薄田 泣菫 読み手:入江 安希子 時間:3分15秒

  戸田采女正一西といふと、徳川秀忠について真田昌幸を信州上田の城に攻めた智恵者だが、この智恵者の家来に人並外れて蛇を恐がる男があつた。
 ある夏の夕方、仲善しの朋輩の一人が、荒縄の水に潰つたのを、
「そら蛇だ。」
と言つて、この男の脚もとに投げ出した。男は、
「呀!」
といつて、洋杖の倒れるやうにばたつと顛けかゝつたが、その儘顔を真青にして気絶してしまつた。
 居合はす人達は慌てて医者を呼びに走つた。急場の間に合ふのは、大抵藪医者と極つてゐるが、亡くなつた後での名医よりは、息がある間の藪医者の方が有難かつた・・・

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