森 鴎外 作
読み手:馬田 めぐみ(2016年)
温泉宿から皷が滝へ登って行く途中に、清冽な泉が湧き出ている。
水は井桁の上に凸面をなして、盛り上げたようになって、余ったのは四方へ流れ落ちるのである。
青い美しい苔が井桁の外を掩うている。
夏の朝である。
泉を繞る木々の梢には、今まで立ち籠めていた靄が、まだちぎれちぎれになって残っている。
万斛の玉を転ばすような音をさせて流れている谷川に沿うて登る小道を、温泉宿の方から数人の人が登って来るらしい・・・
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