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森 鴎外

牛鍋

読み手:凧野 頓太(2016年)

牛鍋

著者:森 鴎外 読み手:凧野 頓太 時間:9分1秒

 鍋はぐつぐつ煮える。
 牛肉の紅は男のすばしこい箸で反される。白くなった方が上になる。
 斜に薄く切られた、ざくと云う名の葱は、白い処が段々に黄いろくなって、褐色の汁の中へ沈む。
 箸のすばしこい男は、三十前後であろう。晴着らしい印半纏を着ている。傍に折鞄が置いてある。
 酒を飲んでは肉を反す。肉を反しては酒を飲む。
 酒を注いで遣る女がある。
 男と同年位であろう。黒繻子の半衿の掛かった、縞の綿入に、余所行の前掛をしている・・・

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