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神西 清

化粧

読み手:中村 昭代(2017年)

化粧

著者:神西 清 読み手:中村 昭代 時間:6分7秒

 これは昔ばなしである。――
 二人はおさない頃から仲よしだつた。家は大和の国の片ほとり、貧しい部落に、今ならばさしづめ葭簀ばりの屋台で、かすとり焼酎でも商なふところか、日ごとに行商をして暮らしを立てる、隣どうしであつた。
 幼い二人は背戸の井筒のほとりで、ままごとや竹馬あそびをしてゐた。遊びにあきると二人で井筒に寄り添つて丈くらべをした。年は少年が三つ上だつたが、背丈は少女の方が高かつた。少年はいつも負けて口惜しがつた。
 井筒につける二人の爪の痕が、だんだん上へ伸びていつた。やがて井筒の丈では間に合はなくなつた。二人はあまり遊ばなくなつた。水を汲みに来てばつたり出会ふと、二人は頬を赤らめた・・・

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