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小川 未明

雲と子守歌

読み手:平尾 民保(2017年)

雲と子守歌

著者:小川 未明 読み手:平尾 民保 時間:16分30秒

 どんなに寒い日でも、健康な若い人たちは、家にじっとしていられず、なんらか楽しみの影を追うて、喜びに胸をふくらませ、往来を歩いています。こうした人たちの集まるところは、いつも笑い声のたえるときがなければ、口笛や、ジャズのひびきなどで、煮えくり返っています。しかし、路一筋町をはなれると、急に空き地が多くなるのが例でした。なかでも病院の建物の内は、この日とかぎらず、いつも寂然としていました。
 どの病室にも、顔色の悪い患者が、ベッドの上に横たわったり、あるいは、すわったりして、さも怠屈そうに、やがて暮れかかろうとする、窓際の光線を希望なく見つめているのでした。
「あんた、いい顔色をしているのね。」
 このとき、火の気のない廊下で、すれちがった一人の看護婦が、同じく白い服を着た友だちに、言葉をかけました・・・

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