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夏目 漱石

「永日小品」より「印象」

読み手:青木 みな子(2018年)

「永日小品」より「印象」

著者:夏目 漱石 読み手:青木 みな子 時間:5分49秒

 表へ出ると、広い通りが真直に家の前を貫いている。試みにその中央に立って見廻して見たら、眼に入る家はことごとく四階で、またことごとく同じ色であった。隣も向うも区別のつきかねるくらい似寄った構造なので、今自分が出て来たのははたしてどの家であるか、二三間行過ぎて、後戻りをすると、もう分らない。不思議な町である。
 昨夕は汽車の音に包まって寝た。十時過ぎには、馬の蹄と鈴の響に送られて、暗いなかを夢のように馳けた。その時美しい灯の影が、点々として何百となく眸の上を往来した。そのほかには何も見なかった。見るのは今が始めてである。
 二三度この不思議な町を立ちながら、見上、見下した後、ついに左へ向いて、一町ほど来ると、四ツ角へ出た ・・・

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