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小川 未明

時計のない村

読み手:貝瀬 晶子(2018年)

時計のない村

著者:小川 未明 読み手:貝瀬 晶子 時間:11分42秒

 町から遠く離れた田舎のことであります。その村には、あまり富んだものがありませんでした。村じゅうで、時計が、たった二つぎりしかなかったのです。
 長い間、この村の人々は、時計がなくてすんできました。太陽の上りぐあいを見て、およその時刻をはかりました。けれど、この文明の世の中に、時計を用いなくては話にならぬというので、村の中での金持ちの一人が、町に出たときに、その町の時計屋から、一つの時計を求めたのであります。
 その金持ちは、いま、自分はたくさんの金を払って、時計を求めることを心の中で誇りとしました。今日から、村のものたちは、万事の集まりや、約束の時間を、この時計によってしなければならぬと思ったからであります。
「この時計は、狂うようなことはないだろうな。」と、金持ちは、時計屋の番頭にたずねました・・・

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