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竹久 夢二

先生の顔

読み手:金勝 陽子(2018年)

先生の顔

著者:竹久 夢二 読み手:金勝 陽子 時間:11分11秒

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 それは火曜日の地理の時間でした。
 森先生は教壇の上から、葉子が附図の蔭にかくれて、ノートへ戯書をしているのを見つけた。
「葉子さん、そのノートを持ってここへお出でなさい」不意に森先生が仰有ったので、葉子はびっくりした。
 葉子は日頃から成績の悪い生徒ではありませんでした。けれど鉛筆と紙さえ持つと、何時でも――授業の時間でさえも絵を画きたがる癖がありました。今も地理の時間に、森先生の顔をそっと写生していたのでした。そして葉子は森先生を大変好きでした。
 森先生に呼ばれて、葉子はそのノートを先生の前へ出した。先生はすこし厳い顔をしてノートを開けて御覧になった。するとそこには、先生の顔が画いてあった・・・

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