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森 鷗外

最後の一句

読み手:黒沢 ちゑ子(2018年)

最後の一句

著者:森 鷗外 読み手:黒沢 ちゑ子 時間:33分25秒

 元文三年十一月二十三日の事である。大阪で、船乗り業桂屋太郎兵衛というものを、木津川口で三日間さらした上、斬罪に処すると、高札に書いて立てられた。市中至る所太郎兵衛のうわさばかりしている中に、それを最も痛切に感ぜなくてはならぬ太郎兵衛の家族は、南組堀江橋際の家で、もう丸二年ほど、ほとんど全く世間との交通を絶って暮らしているのである。
 この予期すべき出来事を、桂屋へ知らせに来たのは、ほど遠からぬ平野町に住んでいる太郎兵衛が女房の母であった。この白髪頭の媼の事を桂屋では平野町のおばあ様と言っている ・・・

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