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江戸川 乱歩

読み手:岡田 百合子(2018年)

著者:江戸川 乱歩 読み手:岡田 百合子 時間:5分2秒

 患者は手術の麻酔から醒めて私の顔を見た。
 右手に厚ぼったく繃帯が巻いてあったが、手首を切断されていることは、少しも知らない。
 彼は名のあるピアニストだから、右手首がなくなったことは致命傷であった。犯人は彼の名声をねたむ同業者かもしれない。
 彼は闇夜の道路で、行きずりの人に、鋭い刃物で右手首関節の上部から斬り落とされて、気を失ったのだ。
 幸い私の病院の近くでの出来事だったので、彼は失神したまま、この病院に運びこまれ、私はできるだけの手当てをした。
「あ、君が世話をしてくれたのか。ありがとう……酔っぱらってね、暗い通りで、誰かわからないやつにやられた……右手だね。指は大丈夫だろうか」 ・・・

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