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野村 胡堂

銭形平次捕物控 江戸阿保宮

読み手:伊藤 和(2018年)

銭形平次捕物控 江戸阿保宮

著者:野村 胡堂 読み手:伊藤 和 時間:1時間3分

   一

 江戸開府以来の捕物の名人と言われた銭形平次も、この時ほど腹を立てたことはないと言っております。
 滅多に人間を縛らぬ平次が、歯噛みをして口惜しがったのですから、よくよくの事だったに相違ありません。
「親分、また神隠しにやられましたぜ」
 ガラッ八の八五郎が飛込んで来たのは、初夏の陽が庇から落ちて、街中に金粉を撒いたような、静かな夕暮でした。
「今度は誰だ」
 平次は瞑想から弾き上げられたように、火の消えた煙管をポンと叩きました。
「石原町の日傭取の娘お仙と駄菓子屋の女房のおまき、それから石原新町の鋳掛屋の娘おらく――」
「三人か」・・・

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