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山之口 貘

あとの祭り

読み手:菅野 秀之(2018年)

あとの祭り

著者:山之口 貘 読み手:菅野 秀之 時間:7分5秒

 この間の朝、裏の井戸端へ顔を洗いに行くと、近所の人に出会したので、「おはようごさいます。」と、ぼくは挨拶した。すると、その人は、にこにこ顔をして、「今朝は、お早いですね。」と言った。
 つまり、近所の人々も、寝坊のぼくのことを知っているわけなのである。ぼくにはわけがあって、この間から、人並の朝をむかえることにしたいものと、こころがけているのであるが、お早いですねと言われてみると、寝坊だった自分のことを、今更のように見せつけられた感じなのであった。
 実際、これまでのぼくには、朝というものがなかったもおんなじで、ぼくが、洗面器と手拭を持って井戸端へ出る頃は、すでに朝の過ぎ去ったあとなのであって、井戸の流しのコンクリートが、陽に照りつけられて乾いている時なのである・・・

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