堀 辰雄 作
「死者の書」古都における、初夏の夕ぐれの対話
読み手:阿蘇 美年子(2019年)
客 なんともいえず好い気もちだね。すこし旅に疲れた体をやすめながら、暮れがたの空をこうやって見ているのは。
主 京都もいまが一番いいんだ。この頃のように澄み切った空のいろを見ていると、すっかり京都に住みついている僕なんぞも、なんだかこう旅さきにいるような気がしてきてならないね。まあ、そういう気もちになるだけでもいいからな……それにしても、君はこの頃はよくこちらの方へ出てくるなあ。いつか話していた仕事はその後はかどっているのかい。何か、大和のことを書くとかいっていたが……
客 いや、あれはあのままだ。なかなか手がかりがつかないんだ・・・
Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.