戻る

戻る

芥川 龍之介

犬と笛

読み手:田中 淑恵(2019年)

犬と笛

著者:芥川 龍之介 読み手:田中 淑恵 時間:29分15秒

   いく子さんに献ず

   一

 昔、大和の国葛城山の麓に、髪長彦という若い木樵が住んでいました。これは顔かたちが女のようにやさしくって、その上髪までも女のように長かったものですから、こういう名前をつけられていたのです。
 髪長彦は、大そう笛が上手でしたから、山へ木を伐りに行く時でも、仕事の合い間合い間には、腰にさしている笛を出して、独りでその音を楽しんでいました。するとまた不思議なことには、どんな鳥獣や草木でも、笛の面白さはわかるのでしょう。髪長彦がそれを吹き出すと、草はなびき、木はそよぎ、鳥や獣はまわりへ来て、じっとしまいまで聞いていました・・・

Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.