戻る

戻る

室生 犀星

洋灯はくらいか明るいか

読み手:市山 綾乃(2020年)

洋灯はくらいか明るいか

著者:室生 犀星 読み手:市山 綾乃 時間:14分6秒

 新橋駅に降りた私はちいさな風呂敷包と、一本のさくらの洋杖を持つたきりであつた。風呂敷包のなかには書きためた詩と、あたらしい原稿紙の幾帖かがあるきり、外に荷物なぞはなく、ぶらりと歩廊に出たときに眼にはいつたものは、煤と埃でよごれた煉瓦の色だつた。そのため構内はうすぐらく、東京に着いた明るい感じなぞはしなかつた。そのころ東海道は新橋が行きとまりになり、新橋が東京の大玄関だつた。美術学校の二年生である田辺孝次と幸崎伊次郎、それに吉田三郎が迎えに出ていた・・・

Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.