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石川 啄木  斎藤 三郎

散文詩 祖父

読み手:みきさん(2020年)

散文詩 祖父

著者:石川 啄木/斎藤 三郎 編 読み手:みきさん 時間:15分49秒

   祖父

 とある山の上の森に、軒の傾いた一軒家があつて、六十を越した老爺と五歳になるお雪とが、唯二人住んでゐた。
 お雪は五年前の初雪の朝に生れた、山桃の花の樣に可愛い兒であつた。老爺は六尺に近い大男で、此年齡になつても腰も屈らず、無病息災、頭顱が美事に禿げてゐて、赤銅色の顏に、左の眼が盲れてゐた。
 親のない孫と、子のない祖父の外に、此一軒家にはモ一箇の活物がゐた。それはお雪より三倍も年老つた、白毛の盲目馬である・・・

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