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太宰 治

桜桃

読み手:福井 慎二(2021年)

桜桃

著者:太宰 治 読み手:福井 慎二 時間:22分57秒

われ、山にむかいて、目を挙ぐ。
――詩篇、第百二十一。

 子供より親が大事、と思いたい。子供のために、などと古風な道学者みたいな事を殊勝らしく考えてみても、何、子供よりも、その親のほうが弱いのだ。少くとも、私の家庭においては、そうである。まさか、自分が老人になってから、子供に助けられ、世話になろうなどという図々しい虫のよい下心は、まったく持ち合わせてはいないけれども、この親は、その家庭において、常に子供たちのご機嫌ばかり伺っている。子供、といっても、私のところの子供たちは、皆まだひどく幼い・・・

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