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中島 敦

悟浄歎異 ―沙門悟浄の手記―

読み手:水野 久美子(2021年)

悟浄歎異 ―沙門悟浄の手記―

著者:中島 敦 読み手:水野 久美子 時間:52分24秒

 昼餉ののち、師父が道ばたの松の樹の下でしばらく憩うておられる間、悟空は八戒を近くの原っぱに連出して、変身の術の練習をさせていた。
「やってみろ!」と悟空が言う。「竜になりたいとほんとうに思うんだ。いいか。ほんとうにだぜ。この上なしの、突きつめた気持で、そう思うんだ。ほかの雑念はみんな棄ててだよ。いいか。本気にだぜ。この上なしの・とことんの・本気にだぜ。」
「よし!」と八戒は眼を閉じ、印を結んだ。八戒の姿が消え、五尺ばかりの青大将が現われた。そばで見ていた俺は思わず吹出してしまった・・・

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