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泉 鏡花

夜釣

読み手:みきさん(2021年)

夜釣

著者:泉 鏡花 読み手:みきさん 時間:14分

 これは、大工、大勝のおかみさんから聞いた話である。

 牛込築土前の、此の大勝棟梁のうちへ出入りをする、一寸使へる、岩次と云つて、女房持、小児の二人あるのが居た。飲む、買ふ、摶つ、道楽は少もないが、たゞ性来の釣好きであつた。
 またそれだけに釣がうまい。素人にはむづかしいといふ、鰻釣の糸捌きは中でも得意で、一晩出掛けると、湿地で蚯蚓を穿るほど一かゞりにあげて来る。
「棟梁、二百目が三ぼんだ。」
 大勝の台所口へのらりと投込むなぞは珍しくなかつた・・・

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