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太宰 治

黄金風景

読み手:西村 文江(2021年)

黄金風景

著者:太宰 治 読み手:西村 文江 時間:11分40秒

 海の岸辺に緑なす樫の木、その樫の木に黄金の細き鎖のむすばれて   ―プウシキン―

 私は子供のときには、余り質のいい方ではなかった。女中をいじめた。私は、のろくさいことは嫌いで、それゆえ、のろくさい女中を殊にもいじめた。お慶は、のろくさい女中である。林檎の皮をむかせても、むきながら何を考えているのか、二度も三度も手を休めて、おい、とその度毎にきびしく声を掛けてやらないと、片手に林檎、片手にナイフを持ったまま、いつまでも、ぼんやりしているのだ。足りないのではないか、と思われた。台所で、何もせずに、ただのっそりつっ立っている姿を、私はよく見かけたものであるが、子供心にも、うすみっともなく、妙に疳にさわって、・・・

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