閉じる

閉じる

窪田 空穂

冬至の南瓜

読み手:横山 宜夫(2022年)

冬至の南瓜

著者:窪田 空穂 読み手:横山 宜夫 時間:8分25秒

 十二月二十二日、冬日ざしが眩しく照つてはゐるが、めつきりと寒くなつた日の午後、A君といふ、青年と中年の中間年輩の人が、用足しに来た。事が済んだあと、「今日はいよいよ南瓜を食べる日になつたね」と、歳末の挨拶気分で云つた。するとA君は急に笑ひ出して、「すこし以前のことですがね、出入をしてゐた百姓が、冬至前に南瓜を持つて来たんです。私はそれを見て、何だこんなうらなりの南瓜なんかを、うまくもない物つて、怒つたんです。私の内では、冬至の南瓜つて物を食べたことがないので、それまで知らなかつたんです」と云つた。
「御両親、越後の方とか云ひましたね」
 A君は頷くので、「冬至の南瓜つて、地方的のものか知ら」と、私は訝つた・・・

Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.