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モーリス・ルヴェル  田中 早苗

ペルゴレーズ街の殺人事件

読み手:田中 淑恵(2022年)

ペルゴレーズ街の殺人事件

著者:モーリス・ルヴェル/田中 早苗 訳 読み手:田中 淑恵 時間:22分45秒

 列車は夜闇の中をひた走りに走っていた。
 私の車室にいた三人の乗客――老紳士と、若い男と、ごく若い女――は、誰も眠らなかった。若い女がときどき若い男に何か話しかけると、男は身振りで答えるばかりで、またひっそりと沈黙におちた。
 二時頃に、速力を緩めないで或る小さな駅を素通りした。駅燈がちらと車窓をかすめると、やがて車体が転車台のところでがたがた跳ったものだから、うとうとしかけたばかりの若い女は、その震動と音響で目をさました。
 若い男は、手套をはめた指先で窓硝子を拭いて外を覗きこんだが、駅の時計も、ランプも、駅名札ももう闇にかくれていた・・・

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