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山川 方夫

朝のヨット

読み手:水野 久美子(2022年)

朝のヨット

著者:山川 方夫 読み手:水野 久美子 時間:8分32秒

 曙の色がほのかに東の空を染めて、間もなくその日の最初の太陽の光が、はるかな海面を錫箔のように輝かせた。洋上はまだ薄暗く、空と海の境もはっきりしなかったが、とにかく、海には朝が来ていた。
 鴎が一羽、そのヨットの上空で、ゆるやかに翼を上下していた。鴎は、まるでどこまでも離れない決心をしたもののように、そのヨットと方向と速度を一つにして、朝空を動くかなりの風の中を翔びつづけた。

「行ってくるよ」
 少年はスナイプ型のヨットに乗り、その舫綱を解きながら、少女に声をかけた・・・

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