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江戸川 乱歩

一人二役

読み手:水野 久美子(2022年)

一人二役

著者:江戸川 乱歩 読み手:水野 久美子 時間:28分15秒

 人間、退屈すると、何を始めるか知れたものではないね。
 僕の知人にTという男があった。型の如く無職の遊民だ。大して金がある訳ではないが、まず食うには困らない。ピアノと、蓄音器と、ダンスと、芝居と、活動写真と、そして遊里の巷、その辺をグルグル廻って暮している様な男だった。
 ところで、不幸なことに、この男、細君があった。そうした種類の人間に、宿の妻という奴は、いや笑いごとじゃない。正に不幸といッつべきだよ。いや、まったく。
 別に嫌っていたという程ではないが、といって、無論女房丈けで満足しているTではない。あちらこちら、箸まめにあさり歩く・・・

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