閉じる

閉じる

海野 十三

もくねじ

読み手:二宮 正博(2022年)

もくねじ

著者:海野 十三 読み手:二宮 正博 時間:30分

   倉庫

 ぼくほど不幸なものが、またと世の中にあろうか。
 そんなことをいい出すと、ぜいたくなことをいうなと叱られそうである。しかし本当にぼくくらい不幸なものはないのである。
 ぼくをちょいと見た者は、どこを押せばそんな嘆きの音が出るのかと怪しむだろう。身体はぴかぴか黄金色に光って、たいへんうつくしい。小さい子供なら、ぼくを金だと思うだろう。ぼくをよく知っている工場の人たちなら、それがたいへん質のいい真鍮であることを一目でいいあてる。実際ぼくの身体はぴかぴか光ってうつくしいのである。
 ぼくは、或る工場に誕生すると、同じような形の仲間たちと一緒に、一つの函の中に詰めこまれ、しばらく暗がりの生活をしなければならなかった。その間ぼくは、うとうとと睡りつづけた・・・

Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.