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芥川 龍之介

蜜柑

読み手:土屋 房枝(2010年)

蜜柑

著者:芥川 龍之介 読み手:土屋 房枝 時間:13分28秒

 或曇った冬の日暮である。私は横須賀発上り二等客車の隅に腰を下して、ぼんやり発車の笛を待っていた。とうに電燈のついた客車の中には、珍らしく私の外に一人も乗客はいなかった。外を覗くと、うす暗いプラットフォオムにも、今日は珍しく見送りの人影さえ跡を絶って、唯、檻に入れられた小犬が一匹、時々悲 しそうに、吠え立てていた・・・

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