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北條 民雄

すみれ

読み手:池戸 美香(2012年)

すみれ

著者:北條 民雄 読み手:池戸 美香 時間:8分53秒

 昼でも暗いような深い山奥で、音吉じいさんは暮して居りました。三年ばかり前に、おばあさんが亡くなったので、じいさんはたった一人ぼっちでした。じいさ んには今年二十になる息子が、一人ありますけれども、遠く離れた町へ働きに出て居りますので、時々手紙の便りがあるくらいなもので、顔を見ることも出来ま せん。じいさんはほんとうに侘しいその日その日を送って居りました。
 こんな人里はなれた山の中ですから、通る人もなく、昼間でも時々ふくろうの声が聞えたりする程でした。取り分け淋しいのは、お日様がとっぷりと西のお山に沈んでしまって、真っ黒い風が木の葉を鳴かせる暗い夜です・・・

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