土田 耕平 作 私の祖父読み手:小川 幸香(2013年) |
私は、幼いころのお父さん、お母さん、おばあさんの思ひ出は、はつきりしてをります中に、おぢいさんといふ人を少しも知りません。おぢいさんとはいつても、まだ四十二で亡くなつたのですから、私の生れるずつと先のことです。
このおぢいさんは、大そうえらい人だつたと、私の子供のじぶん、誰彼にいひきかされました。
「なぜえらいのか。」
ときゝますと、
「大そう学問ができたから。」といふ返事をしてくれました。学問ができたからえらい、といふのでは、私は満足することができませんでした・・・