閉じる

閉じる

佐藤 春夫

井伏鱒二は悪人なるの説

読み手:土屋 由美子(2023年)

井伏鱒二は悪人なるの説

著者:佐藤 春夫 読み手:土屋 由美子 時間:7分40秒

 太宰治は井伏鱒二は悪人なりの一句を言ひ遺して死んだと聞く。これはなかなか重要な遺言だと思はれるから、自分はこれを解説し太宰にとつて井伏鱒二が悪人であつた事を裏書きして置きたいと思ふ。
 太宰は逆説的表現を好む男であつたから、井伏鱒二は悪人なりと書いてあつても自分は大して奇異には思はない。むしろ、「井伏さんには長い間いろいろ御世話になりましたありがたう」と書いてあつたとしたら、かへつて変な位なものであらう。また、太宰が井伏を本当に悪人と感じたとしたら井伏鱒二は悪人なりなどとそんな単純な気の利かない云ひ方で満足したであらうか・・・

Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.