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山川 方夫

非情な男

読み手:野中 美木子(2023年)

非情な男

著者:山川 方夫 読み手:野中 美木子 時間:11分9秒

 私は顔をあげた。やはり彼女だった。
 窓ごしに彼女の眼が、哀願するように私をみつめている。
 開けてくれというのだ。
 黒い窓に、彼女は音をたてる。しだいに強く、執拗に、その音がつづいている。
 彼女は身もだえをし、全身で私に合図している。
 ……だが、私には彼女を部屋に入れてやる気は毛頭ない。だんじてない。そんなことをしたら、かえって面倒なことになってしまうだけだ。
 この深夜、ここまで単身でやってくるというのは、彼女にしたらたしかにたいへんな決意だっただろう。それはわかる。恐怖も躊躇もかなぐり捨て、彼女はむきだしの本能そのものに化し、ただ闇雲にそれに忠実になることに自分を賭け、・・・

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