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楠山 正雄

田原藤太

読み手:入江 安希子(2024年)

田原藤太

著者:楠山 正雄 読み手:入江 安希子 時間:10分31秒

   一

 むかし近江の国に田原藤太という武士が住んでいました。ある日藤太が瀬田の唐橋を渡って行きますと、橋の上に長さ二十丈もあろうと思われる大蛇がとぐろをまいて、往来をふさいで寝ていました。二つの目玉がみがき上げた鏡を並べたようにきらきらかがやいて、剣を植えたようなきばがつんつん生えた間から、赤い舌がめらめら火を吐くように動いていました。あたり前の人なら、見ただけで目を回してしまうところでしょうが、藤太は平気な顔をして、大蛇の背中の上を踏んで歩いて行きました。しばらく行くと、後ろでだしぬけに、
「もしもし。」
 という声がしました。その時はじめてふり向いてみますと、・・・

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