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岡本 かの子

読み手:田中 淑恵(2024年)

著者:岡本 かの子 読み手:田中 淑恵 時間:13分23秒

 晴れた秋の夜は星の瞬きが、いつもより、ずつとヴイヴイツトである。殊に月の無い夜は星の光が一層燦然として美しい。それ等の星々をぢつと凝視してゐると、光の強い大きな星は段々とこちらに向つて動いて来るやうな気がして怖いやうだ。事実太洋を航海してゐるとき闇夜の海上の彼方から一点の光がこちらに向つて近づいて来る。何であらうと一心にそれを見守つてゐると、突然その光の下に黒々とした山のやうな巨船の姿を見出してびつくりしたことがある。星を見詰めてゐると何か判らない巨大なものがその星を乗せてこちらに迫つて来るやうな気がする時もある。さういふ錯覚は一種の恐怖に似て神秘的な楽しさでもある・・・

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