片山 廣子 作 イエスとペテロ読み手:アン荻野(2024年) |
聖書の中にあるイエス・キリストやお弟子たちの話が、人の口から耳へ、思ひもかけない遠くの国に伝へられて、その国のキリストやペテロの話になつてゐることもある。これはアイルランドの民話で、ユダヤ、サマリヤ、ガリラヤの国々がすぐ彼等の村々に続いてゐるやうにも聞える話である。
イエス・キリストがガリラヤの湖のほとりや野はらや町を歩かれた時、いつも十二人の弟子がみんなで従いて歩いたわけではなかつた。さてこれはイエスがペテロ一人だけ連れてゆかれた時の話。
或る日イエスはペテロをつれてガリラヤの湖のそばの山路をゆかれた。日のしづみかけてゐる路傍に老人の乞食がゐた・・・