田中 貢太郎 作 円朝の牡丹燈籠読み手:水野 久美子(2024年) |
一
萩原新三郎は孫店に住む伴蔵を伴れて、柳島の横川へ釣に往っていた。それは五月の初めのことであった。新三郎は釣に往っても釣に興味はないので、吸筒の酒を飲んでいた。
新三郎は其の数ヶ月前、医者坊主の山本志丈といっしょに亀戸へ梅見に往って、其の帰りに志丈の知っている横川の飯島平左衛門と云う旗下の別荘へ寄ったが、其の時平左衛門の一人娘のお露を知り、それ以来お露のことばかり思っていたが、一人でお露を尋ねて往くわけにもゆかないので、・・・