中島 敦 作 弟子 六~十読み手:齊藤 雅美(2024年) |
六
晋の魏楡の地で石がものを言ったという。民の怨嗟の声が石を仮りて発したのであろうと、ある賢者が解した。既に衰微した周室は更に二つに分れて争っている。十に余る大国はそれぞれ相結び相闘って干戈の止む時が無い。斉侯の一人は臣下の妻に通じて夜ごとその邸に忍んで来る中についにその夫に弑せられてしまう。楚では王族の一人が病臥中の王の頸をしめて位を奪う。呉では足頸を斬取られた罪人共が王を襲い、晋では二人の臣が互いに妻を交換し合う。このような世の中であった・・・