中島 敦 作 弟子 一~五読み手:齊藤 雅美(2024年) |
一
魯の卞の游侠の徒、仲由、字は子路という者が、近頃賢者の噂も高い学匠・陬人孔丘を辱しめてくれようものと思い立った。似而非賢者何程のことやあらんと、蓬頭突鬢・垂冠・短後の衣という服装で、左手に雄、右手に牡豚を引提げ、勢猛に、孔丘が家を指して出掛ける。雞を揺り豚を奮い、嗷しい脣吻の音をもって、儒家の絃歌講誦の声を擾そうというのである。
けたたましい動物の叫びと共に眼を瞋らして跳び込んで来た青年と、圜冠句履緩くを帯びて几に凭った温顔の孔子との間に、問答が始まる・・・