上村 松園 作 寛政時代の娘納涼風俗読み手:坂井 あきこ(2024年) |
月蝕は今迄余り多く描かれて居りませんから一度描いてみたいと胸に浮びましたのが動機です。
あの画は寛政の頃の良家の娘さんの風俗で夏の宵広い庭に降り立って涼を納れて居ります時に「今夜は月蝕だわ……」とふと思い付いて最も見易いように鏡を持ち出して写し取っている所です。空を仰いで眺めているのでは落ち着きがなくて如何にも軽くなりますので、ああして俯向きがちの所を描きましたが、余り夜深になりますと反って凄うなりますから、宵の口で月蝕というものを題にして夏の夕方の納涼気分を現わしただけに過ぎません。
私の画はモデルは余り用いませんが、・・・