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久米 正雄

読み手:水野 久美子(2024年)

著者:久米 正雄 読み手:水野 久美子 時間:38分45秒

 新派俳優の深井八輔は、例もの通り、正午近くになつて眼を覚した。戸外はもう晴れ切つた秋の日である。彼は寝足りた眼をわざとらしくしばたゝいて、障子の硝子越しに青い空を見やると、思ひ切つて一つ大きな伸びをした。が、ふと其動作が吾乍ら誇張めいてゐるのに気がつくと、平常舞台での大袈裟な表情が、此処まで食ひ込んでゐるやうな気がして、思はず四辺を見巡し乍ら苦笑した。彼は俳優の中でも、実に天成の誇張家であつた。そして其誇張が過ぎて道化た気分を醸す処に、彼の役処の全生命が在つた・・・

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