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宮沢 賢治

春と修羅 小岩井農場

読み手:村田 いずみ(2024年)

春と修羅 小岩井農場

著者:宮沢 賢治 読み手:村田 いずみ 時間:39分37秒

 パート一

わたくしはずゐぶんすばやく汽車からおりた
そのために雲がぎらつとひかつたくらゐだ
けれどももつとはやいひとはある
化学の並川さんによく肖たひとだ
あのオリーブのせびろなどは
そつくりおとなしい農学士だ
さつき盛岡のていしやばでも
たしかにわたくしはさうおもつてゐた
このひとが砂糖水のなかの
つめたくあかるい待合室から
ひとあしでるとき……わたくしもでる
馬車がいちだいたつてゐる
馭者がひとことなにかいふ
黒塗りのすてきな馬車だ
光沢消しだ
馬も上等のハツクニー
このひとはかすかにうなづき
それからじぶんといふ小さな荷物を
載つけるといふ気軽なふうで
馬車にのぼつてこしかける ・・・

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