森下 雨村 作 三十六年前読み手:真喜屋 智美(2025年) |
「二銭銅貨」が世に出たのが大正十二年、ついこの間のような気がするが、正しく三十六年の昔である。いま、「宝石」を中心に活躍している作家諸君の大半が、おそらく産声をあげたか、まだやっと這い這いをしていたころであろう。それから今日まで、戦争騒ぎでそこばくの蟄居時代はあったにしても、探偵小説への情熱をもちつづけて、海外ものの研究に、新人の育成に、倦くなき努力をつづけてきた江戸川君の労は、まったく多としなければならない。
還暦を祝うということは、昔とちがって、日本人の平均年令がぐっと上昇したといわれる今日では、・・・