石川 啄木 作 弓町より読み手:水野 久美子(2025年) |
食うべき詩
詩というものについて、私はずいぶん長い間迷うてきた。
ただに詩についてばかりではない。私の今日まで歩いてきた路は、ちょうど手に持っている蝋燭の蝋のみるみる減っていくように、生活というものの威力のために自分の「青春」の日一日に減らされてきた路筋である。その時その時の自分を弁護するためにいろいろの理窟を考えだしてみても、それが、いつでも翌る日の自分を満足させなかった。蝋は減りつくした。火が消えた。幾十日の間、黒闇の中に体を投げだしていたような状態が過ぎた・・・