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岡本 綺堂

年賀郵便

読み手:横山 宜夫(2025年)

年賀郵便

著者:岡本 綺堂 読み手:横山 宜夫 時間:6分42秒

 新年の東京を見わたして、著るしく寂しいように感じられるのは、回礼者の減少である。もちろん今でも多少の回礼者を見ないことはないが、それは平日よりも幾分か人通りが多いぐらいの程度で、明治時代の十分の一、ないし二十分の一にも過ぎない。
 江戸時代のことは、故老の話に聴くだけであるが、自分の眼で視た明治の東京――その新年の賑いを今から振返ってみると、文字通りに隔世の感がある。三ヶ日は勿論であるが、七草を過ぎ、十日を過ぎる頃までの東京は、回礼者の往来で実に賑やかなものであった。
 明治の中頃までは、年賀郵便を発送するものはなかった・・・

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