林 芙美子 作 柿の実読み手:堀口 直子(2025年) |
隣家には子供が七人もあつた。越して来た当座は、私のうちの裏庭へ、枯れた草酸漿が何時も一ツ二ツ落ちてゐて、檜の垣根の間から、その隣家の子供達が、各々くちの中で酸漿をぎゆうぎゆう鳴らしながら遊びに来た。
風のよく吹く秋で、雲脚が早くて毎日よく落葉がお互ひの庭に溜つていつた。
「おばさまおちごとですか?」
下から二番目の淵子ちやんと云ふ西洋人形のやうな子供が、私のうちの台所の窓へぶらさがつてはばあと覗いた。
元隣家は、年寄夫婦がせまい庭を手入れして鶏なぞを飼つて住まつてゐたのだけれども、大阪の方へ息子さんを頼よつて行つてしまつて、長い間空家になつてゐた。夏中草が繁げつてしまつて、鶏小舎の中にまで白い鉄道草の花がはびこつたりしてゐたのが、・・・